月のしずく







 丸く白い月が天高く輝いていた。

人里から遥かに離れた山の麓で、その月に見守られるように一人の少年が唸りながら手の平を見つめている。

「うう…クソ…ッ」

 黒髪の隙間から見える幼い顔は汗に塗れ、細い顎から雫が滴り落ちている。


 目は赤く染まり、写輪眼と呼ばれる特有の模様を映し出していた。


 震える右手からはチリチリと青い電流が時折見え隠れしている。


 右手の上を、光が照らし始めた。


 出てきた白い光の球体に、少年はにやりと口端を吊り上げる。


「よし…来た…」


「サスケェ…いい加減にしなさいよ」


 不意に、少し離れた場所から男の声が掛かった。


「うるせえッ!!」


 サスケと呼ばれた少年は目を吊り上げると、突如此方に向かい走ってきた。


「行くぞッ! 千鳥…ッ」


 すると、男の元に着く間も無く右手の光が細々と小さくなっていく。


「あ…っ!」


 ぶんと突き出した手はあっさりと交わされ、サスケは派手に転んだ。


「ほら言ったでしょ。本格的なチャクラ切れ」


「だ、大丈夫だ。まだイケる」


 サスケは背後の男に怒鳴りつけながら立ち上がろうとしたが、すぐにがくりと力が抜けてまた地面に膝をついた。


「く…ッ」


「とっくに日付も変わってる時間だよ。いい加減寝なさい」


「ま、まだだッ! もう少し…もう少しで…」


 あーもう、と言いながら、男は持っていた本をぱたんと閉じると腰のポーチに仕舞いサ聞き分けのない目の前の子供に言い聞かす。


「体力回復のために身体を休めるのも修行のうちだよ。明日また頑張ればいいでしょーが」


「俺には時間がねえ」


 サスケは悔しそうに呟くと、震える身体を無理矢理起こし立ち上がった。


「俺より強い人間はゴマンといるんだ。こんな修行でへたばって堪るか」


「そうじゃなくてね…」


 男は銀髪の頭をがりがり掻き毟りながらサスケの元にやって来る。


「お前は精神と今の身体の状態が比例してないの分かってる?」


「……」


「修行はまた明日。あんまり無理すると体も壊しかねないよ」


 ね、と困ったように目で笑うはたけカカシ。


 しかしそんなカカシを尻目に、サスケは一人焦っていた。


 試験はもう目の前に迫っている。


 カカシから伝授された技、千鳥を一刻も早く完成させなければ。

 
 サスケは自分の手の平を見つめて黙り込んだ。


 切り傷だらけの手の平からはピリピリと小さな電流が放出されている。


「まだ出る…」


「だから、それは雷電の名残で…あーもうっ」


 一向に言う事を聞こうとしないサスケにカカシは呆れたように空を仰いだ。


「…じゃあ賭けをしよう。次に千鳥を出せなかったら俺の言う事聞け」


 え、とサスケは突然の提案に目を見開く。


「お前が勝ったら好きにしたらいい。好きなだけ修行の続きをしろ」


 にやりと笑ったサスケは大きく頷き、手の平を天に向けた。


「やっと煩い口から解放されるぜ…千鳥ッ!」


 真夜中に響いたサスケの声高に、近くの森にいた鳥が驚いて羽ばたいていった。


「……」


「不発…だね」


 カカシの声に、サスケはかーっと顔を真っ赤に染めて手を下ろした。


 がくりと項垂れて手の平を見つめると、そっとその手にカカシの手が添えられる。


「また明日、頑張ろうな」


「…おう」


「じゃ、俺の勝ちってことで、言う事聞くね?」


 サスケは目を背けると「わかったよ。もう寝る」と言い捨てて踵を返そうとした。


「そうじゃなくて」


「え?」


 肩を掴まれ振り向かされたかと思うと、突然唇に何かが触れた。


「…っ?!」


 至近距離過ぎて最初よく分からなかったが、それは有り得ないほど接近したカカシの顔だっ
た。


 しかも口に押し付けられているのは、カカシの唇だ。


「ん、な…っ!」


 驚いて顔を引こうとしたが、後頭部を掴まれてまた深く吸い付かれる。


「てめ…っ、何やって…っ」


「ん〜? 俺の言う事きいてくれるんでしょ?」


「んなこと…っ」


 そこまで言ってサスケはハッとした。


 月明かりでぼんやりと見えるカカシの素顔。


 今まさにマスクを外し、見たことも無い口許が露になっている。


「……」


「なに…?」


 月明かりを背にしているカカシの顔の造形はよく分からなかった。


 だが、その表情が笑っているのは分かる。初めて見る口許は引き上げられて美しい弧を描いていた。


「あ……」


 サスケはキスされたことも忘れて暫しカカシの顔に魅入った。


 惚けているサスケに、またカカシがそっと顔を寄せてくる。


 今度は抵抗を忘れていたせいか、口内に舌が滑り込んできた。


 思わず目を瞑ると、暖かな舌先がねっとりとサスケの舌を包み絡みついた。


「ん…やめ…っ」


 初めての感覚にサスケは動揺し、焦ってカカシの胸を押し退けようとした。


 だが疲れきっている身体はまるで力が入らない。


 その間にも口腔の舌は傍若無人に這い回る。


 ぴちゃぴちゃと厭らしい水音が聴覚をも刺激して、サスケはいつの間にかカカシの服を縋るように握り締めていた。


「は…ん……っ」


「可愛いな…サスケ」


 唇を離れて耳元でカカシの低い声が囁く。


 その後耳の中にも舌が入り込んできた。


 耳の中の道をゆっくり辿られて奥を刺激するように擽られると、思わずサスケは顎を上げて仰け反った。


「や、…カカ…ッ」


 名を呼ぼうとしてまた唇を塞がれる。


 唾液が口端から零れ落ち、顎の下で玉を作ると、それを追うようにカカシの唇が降りてきて舐め上げた。


「あ……」


 頭が朦朧としてくる。


 啄ばむような心地良さと久しぶりに感じる他人の体温。


――気持ちいい…。


身を委ねるようにそっと目を閉じる。


――気持ちよくて…すげ…眠い…。


 気付けば夢の中にいた。

 



サスケ……


誰かが俺を呼んでいる。


優しくて、大きくて、熱い手をしている。


この暖かさは誰だっけ。


その手が俺の身体を弄っている。


壊れ物に触れるような、撫ぜるような優しい手つきで這い回っている。


もっと…もっと触って。


そこじゃない…もっと……。


そう、そこ…。


ああ、すげー気持ちいい…。


もっと、もっと抱き締めて…――。


 


 はっとしてサスケは目を見開いた。

勢いつけて起き上がり周りを見回すと、いつもの岩山に囲まれた修行場だったことを思い出
す。


空が白んできて、夜明けが近付いていた。


――俺はなんて夢を…。

 夢とは言え自分の不埒な思考に顔を熱くし、嫌悪感が湧き出てくる。


 項垂れた先に、毛布をかけられていたことを知って横を向いた。


 少し離れた場所に、カカシが同じように横になり眠っていた。


 サスケは隠れるように息を吐くと、昨夜のことを思い出して赤くなった。


――大体コイツが変なことすっから…。


 ここまで考えて、サスケは眉を潜めた。


 あのキスはもしかして夢だったのだろうか。


 昨夜は修行で身体も心も疲れきっていて、現実と夢がごっちゃになっている。


 再びはっとした。


 恐る恐る毛布を捲くって自分の下肢を覗く。


「……っ!!」


 耳まで顔を真っ赤に染めて、サスケは思わずまたカカシに振り返った。


 反対側を向いて寝ているカカシは、表情こそ見えないまでも規則正しい寝息を漏らしている。


 まだ寝ていたことにほっとして、サスケはそっと寝床から抜け出し明けてもいない朝もやの中を音も立てず駆け出した。




 


「なにしてんの」


 背後の声に、サスケは大袈裟なほど驚いて肩を引き攣らせた。


 見なくとも分かる。カカシだ。


「あ、ああ…洗濯を、な」


「こんな朝っぱらから?」


「いいだろ、別に」


 森の中にある川の辺で下着を洗っていたサスケは、目を合わせられないカカシに向かいぶっきらぼうに返した。


――なんだよ。寝てたんじゃなかったのかよ…ッ!


 怒りと恥ずかしさで顔から火が出そうだ。


「ふーん…パンツだけ?」


「う、うるせーッ!」


 かっとして怒鳴ると、目が合ってまた慌てて顔を逸らす。


 少し離れた岩の上に座っていたカカシから、クククと押し殺した笑い声が聞こえてきた。


「若いねえ、サスケ君」


 全てお見通しのようだ。


 同じ男だし、当然と言えば当然なのだろうが…。


「だ、大体アンタが昨夜変なことすっから悪ィんだろうが」


 ぼそりと言うと、カカシはそうねーとさも悪びれもせず嘯いた。


 サスケだってこの汚れたパンツを洗いながら考えていたのだ。


 あれが夢だったのか現実だったのか、曖昧な記憶の糸を手繰り寄せてどうにか出した結論。


――あれは夢じゃなかった。俺はコイツにキスされた…。


「もしかしてサスケ君ファーストキスだった?」


「っんなワケあるかッ!!」


 思わず叫んだが、実はファーストキスがナルトだったとは死んでも言えない。


「あははは。さすがサスケはモテモテだね」


「…大体、なんであんなことしたんだよ」


 賭けに負けた時点は、てっきり修行をやめようとしない自分にさっさと寝ろと言われるものだと思っていた。


 なのにいきなり抱き締められて唇を奪われて…予想外を通り越して奇行だ。


「ま、なんていうか…お前が修行している間本読んでたら俺も人肌恋しくなっちゃってなあ」


「いかがわしい本ばっかり読んでるからだ」


 まあまあと苦笑しながらひょい、とカカシがサスケの元へ飛び降りた。


「うわ…っ」


 突然横に立たれて、しゃがんでいたサスケは驚いて飛び上がる。その拍子にバランスを崩して川の中へと倒れてしまった。


 頭まで水を被ったせいで、完全に全身ずぶ濡れだ。


「ア、アンタが急に降りてくっから…っ」


「あらら。まーついでに水浴びもしたら?」


 カカシに言われなくとも最初からそのつもりだった。下着を洗い終えたら自分もついでに軽く昨日の名残である汗や埃を落とそうと思っていたのだ。


「…だったらアンタはどっか行け」


「なんで?」


「アンタが行かないなら俺が行く」


「はいはい。分かりましたよ」


 存外あっさり引いたカカシは、どろんと煙を立てて消えてしまった。


「…ったく」


 大きく息を吐き、サスケは濡れた服を脱ぎ捨てると再び川の中へ足を運んだ。


――昨夜のことは忘れよう。今は修行中の身だ。不謹慎なことは考えず…。


「サスケ、下ツルンツルンなんだ」


「どわあああっ!!」


 突然降ったカカシの声に、サスケは大仰に驚き川の中で尻餅をついた。


「なっ、なんでアンタがいるっ! どっか行ったはずじゃなかったのかっ」


「ああ、そう思ったんだけどね。サスケって下の毛生えてるのかなーって気になって戻ってき
た」


「くだらないことで戻ってくんなっ! 変態がっ」


 かっとしたサスケは立ち上がり様大きく拳を振り上げた。


 だがそれはあっさりかわされ、またよろけて川に飛び込むような体勢になる。


 だがすぐに腕を掴まれてそれは回避された。


「はっ、離せっ」


「夢精だけで全部出せたの?」


 露骨な言葉に、サスケは再び顔を真っ赤にした。


「先生が手伝ってあげようか」


「誰が先せ…っ」


 罵声は唇によって塞がれた。


 目を大きく見開いた先に、マスクを外したカカシの顔がある。


――まただ…。


 カカシの顔に興味があるのが先立って、抵抗を忘れてしまう。


 写輪眼のある片目は額当てに覆われているものの、その下を伝うように古い傷跡が浮かんでいた。


「んっ、んぅ…」


 気付けば口内に舌が忍び込み、サスケの舌に大きく絡み付いてくる。


 頭が朦朧としてくる。


 執拗に口腔を這いずり回る舌に酔いしれ、いつしかサスケもなすがままで目を閉じていた。


 不意に、下肢に暖かい温もりを感じた。


 それがカカシの大きな掌だと気付くと、サスケは飛び上がるようにして目を見開いた。


「なっ…やめ…っ」


「じっとして」


 耳障りの良いカカシの低音にびくりと肩を竦める。


「あ…」


 大人しくなったサスケに、そう、と言いながらカカシの掌がサスケのモノを優しく包み込み撫でるように摩り始めた。


「は…う……」


「気持ちイイ…?」


 川の中で突っ立ったまま、ぴったりと寄り添うようにして互いを抱き締め合う。


 森の中で耳に届くのは、木立が風に揺れる音と小鳥の囀り、優しく流れる小川のせせらぎだけだ。


「ん…、っく」


 擦られるたびに膨張する欲望に、サスケは縋るようにしてカカシの服を握り締めた。


「や……」


「出してもいいよ」


 耳元で囁かれた声に肩を震わせる。


 それから一気に快感が全身を駆け抜け、引き攣るように出した声の後にカカシの掌にありったけの欲望をぶちまけた。


「あ…はあ…はあ…」


「いっぱい出たね」


 腰が抜けそうなサスケを支え、カカシがちゅ、と小さく耳朶に口付ける。


 ぼんやりと顔を上げれば、いつもの口布を顔半分に引き上げたカカシが笑っていた。


「……」


「なに?」


「…離せよ」


「立てるか?」


「うるせ…」


 突っ撥ねるようにしてカカシの腕から這い出ると、サスケはそのまま川の中にしゃがんで項垂れた。


「サスケくーん…」


 頭上から聞こえる声に耳も貸さず、サスケは黙って膝の間に顔を埋めていた。


 激しい自己嫌悪に苛まれる。


 恥ずかしさと、情けなさと悔しさが入り混じって男の顔を見ていられない。


 サスケの前に立っているカカシも、ちょっとやりすぎたかと反省するよう顔をぽりぽり指で掻いた。


「あー…ごめんね」


「……」


「サスケがあんまり可愛くてさ、はは…」


「……」


「お、お詫びに朝ご飯はサスケの好きなものにするから…」


「…おむすび」


 ぽつりと呟かれた声に耳を欹て、小さな頭を見下ろす。


「おかか」


 再び聞こえた言葉に、思わず少し噴出してしまった。


「分かった」


 にっこりと笑い、カカシはサスケの腕を引いて立たせた。


「すぐ準備するから」


「…おう」


 ぽんぽんと小さな頭を撫でると、サスケは真っ赤になった顔で横を向き目を逸らした。


 可愛いなあ、と思いながらこれ以上サスケの機嫌を損ねないようにとカカシは音もなく煙を立てて消えた。

 






「サスケーそろそろ寝るぞ」


 その夜、カカシがサスケに向かい叫ぶと、肩で息を切らしていたサスケが此方を見て振り返った。


「…水浴びしてくる」


 てっきりまたうるせえと返されるかと思いきや、予想だにしなかった言葉にカカシは一瞬きょとんとなった。


 間抜けに「いってらっしゃい」と返すと、サスケは背中を向け疲れたように森に向かって歩いて行った。


 暫くして、サスケが戻ってきた。


 土埃塗れだった顔もすっかり綺麗になり、洗髪されて濡れた髪から水が滴り落ちている。


「風邪ひくぞ。ちゃんと拭け」


 カカシがタオルを差し出すと、サスケは受け取り少々乱暴に自分の髪をワシャワシャと拭き始めた。


「今日は素直だな」


 ふっと笑って言えば、タオルの隙間から顔を覗かせたサスケが案の定顔を背けた。


「…アンタに逆らうとロクな目に合わないからな」


「はは。上等上等」


 ある程度聞き分けが出来るようになった小さな弟子に、カカシは上機嫌で肩を揺らして笑う。


 それから二人は横になり、それぞれの毛布を被って寝る体勢に入った。


「…月が綺麗だな」


 カカシが呟けば、反対側を向いていたサスケがそっと顔を天上に向けた。


「太陽がナルトなら、お前は月だな。サスケ」


 言われた言葉に面食らったように、サスケが目を大きくしてカカシを見た。


「なんで」


「眩しいくらい存在感のあるナルト。普段は決してその情熱を見せないサスケ。ほら、似てるだろ?」


 サスケは何も言わず月を見つめた。


「でも太陽はその月に憧れている。闇の中で仄かな光を放つ静かで神秘的な光を」


「……」


「でも月もまた太陽に憧れている。世界中を照らす生命力に溢れた強く賑やかな光。どちらも魅力的で美しいな」


「…陰と陽か。確かに俺は陰だ」


 カカシがサスケを横目で見た。


「万物は何でも対がある。そしてそれは永遠にあいまみえない」


「そんなことはないさ。大事なのはバランスだ。どちらが欠けても成り立たない」


 黙ってしまったサスケに、カカシは曖昧に笑い伸びをした。


「ま、年寄りの退屈な話はやめてもう寝よう。明日も早いぞ」


「…俺は月が嫌いだ」


 ぽつりと漏れた声にカカシが目を向ける。


「夜にしか輝けない弱々しい光だ。時に闇の空に飲み込まれそうになるほどひ弱だ」


「…そうだな。だから俺はその闇から手を差し伸べたくなっちまう」


 カカシは体を起こすとサスケの上に覆い被さった。


「強くなれ。決して自棄になるな」


「……」


「泣きたい時は泣いてもいいんだ。弱い部分も、みっともない部分も全部曝け出しちまえ。俺が受け止めてやる」


 サスケが目を大きく見開いた。


「俺じゃ不満か?」


 優しく笑む隻眼に、サスケは無意識に手を伸ばしていた。


 口布をそっと引っ張り、下に引き下ろす。


 端正な顔が露になる。


 誰もが息を呑むような、どこまでも整った美しい顔立ちだ。


「…アンタの素顔見たのは、七班で俺だけだな」


「ああ」


「この間だけはお互い秘密はなしだ」


 カカシはにっこり笑って頷いた。


「キ……」


 何か言いかけたが最後まで言葉にならないサスケに変わって、カカシが言った。


「キスして欲しいの?」


 サスケは息を詰めて顔を真っ赤に染める。


「俺もそうしたいから、するね」


 互いの顔がゆっくり近付き、やがて唇が触れた。


 重なった唇から徐々に体温が上がってゆき、無意識に体が密着する。


 少し口を開きかけたサスケに、ゆっくりとカカシの舌が忍び込んできた。


 柔らかく絡みつく舌先に、いつしかサスケも習うようにそれを追っかけていた。


「さすがエリートのうちはだな。キスの上達も早い」


「抜かせ」


 憎まれ口を塞ぐようにまたキスを落とすと、カカシはサスケの服に手を忍ばせてゆっくりと頭から抜き取った。


「アンタも…」


 ああ、と言ってカカシもベストや上着を脱ぐ。


「すげ…」


 はじめて見る男の鍛えられた上半身に、サスケは思わず圧巻されて口走る。


「傷…あちこちに…」


 よく見れば色んな箇所に古傷があり、今までの戦闘の場数を物語っていた。


「サスケは綺麗な体だね」


「ど、どうせ俺はガキだし経験不足…っ」


 そうじゃなくて、とカカシはサスケを抱き締めた。


「ずっとこのままでいて欲しい。お前を傷つける奴は許さないよ」


 耳元で囁かれ、かっと顔を赤らめる。


 そんなサスケにふっと微笑み、再びカカシは唇を重ねた。


 


「ぁ…く…っ」


 ぴちゃぴちゃと月夜の下でささやかな水音が響いていた。


 サスケの小さな胸の突起に舌を這わせ、手は下肢をゆるゆると弄っている。


「あ…はぁ……」


 サスケはたまらないというように顔を逸らすと、カカシの手に自分の手を重ねた。


「も、い、いい…からっ」


「イッてもいいよ」


「――ッ!」


 言われた直後、思いきり欲望が弾けた。


「はあ…はあっ」


「大丈夫か…?」


 頭上に声にそっと目を開き、月を背にした男の顔をぼんやりと眺る。


サスケはゆっくりカカシに縋りつくと、まだ整っていない息を吸い込み耳元で呟いた。


「早く…続き…」


「…いいのか?」


「うちはナメんなよ」


 プライドの塊みたいに聞こえるが、それがサスケの強がりだと知っている。


「すごいんだな、うちはは」


 笑ってそう言った後、カカシは掌に飛び散った白い迸りを指で湿らせるように掬い、再びサスケの腰を持ち上げるように抱き締めた。


 浮いた体の下でカカシの手が尻を割り、奥を指で触れてきた。


「…っ!」


 恐怖に一瞬体を強張らせたサスケに、宥めるようにキスをする。


 体が弛緩してきたのを見計らって一本だけ指を沈み込ませた。


「ひ…っ」


 思わず声を引き攣らせるサスケを気遣い、動きを止める。


「い、いいから…っ」

「……」


 カカシは黙って埋め込んだ指の動きを再開する。


「ぅ…ふ……」


 涙で滲んできた目尻に口付けて、それでもどうにか馴らそうと丹念に長い指を行き来させる。


 やがて伸縮を始めた蕾に、また慎重に指を追加する。


「あぁ…っ」


 サスケが喘ぐたび、カカシの中で嗜虐に似た感情が目覚める。


 優しくしてやりたいのに、すすり泣くサスケももっと見たいと思う。


「ごめんね、サスケ…」


 また指を増やせば、サスケは声にならない叫びを上げてカカシの腕を掴んだ。


「やめる…?」


 意地の悪い問いかけに、案の定サスケは「誰が」と強がった。


 大人はずるい。


 分かる答えをわざと問いかける。


「サスケ…」


 それでも、サスケと繋がりたいという衝動は本望だ。


 愛しいと思う。可愛くて泣かせてやりたいとも思う。


 とことん歪んだ愛情だ。きっと子供のサスケには分からない。


「挿れてもいい…?」


 カカシ自身限界だった。


 サスケが息を切らせながら静かに頷いた。


 指を引き抜くと、圧迫感から解放されたサスケは大きく肩を落とした。


 しかしその後、足を高く持ち上げられて、カカシの肩にまで乗っけられてしまう。


「サスケは体柔らかいから大丈夫だよね」


「え…」


 ぴたりと尻に感じた感触に目を向けると、目の前にした雄の怒張に驚愕する。


「あ……」


 こんなモノが入るのだろうかと、サスケの中で再び恐怖が芽生え竦み上がった。


「出来るだけ優しくするから」


「う、うん…」


 今はカカシを信じるしかない。


 サスケは覚悟を決めて目を強く閉じた。


「う……」


 指とは比べ物にならない硬く太いモノが押し入ってくる。


 メリメリと骨が砕かれるような音と入り口を裂く激痛に、サスケは声にならない悲鳴を上げた。


「い、痛い…っも…無理…っ」


 ついに目尻から溜まっていた涙が頬を伝い落ちる。


「もう少しだから…」


 それでもカカシは挿入をやめようとはしない。


「カ、カカシ…っ、ひっ、う…っ」


 カカシの腕に爪を立ててサスケはすすり泣いた。


「は…っ、はっ…サ、サスケ」


 止まった動きに恐る恐る目を上げる。


「全部入ったぞ」


 柔らかく笑って、カカシが顔に張り付いていたサスケの前髪を掻き分けた。


「…嘘つき」


 え、と一瞬カカシがきょとんとなる。


「優しくするって言っただろ」


「あ、わ、悪い」


 カカシはおろおろとなり、情けない顔をして謝った。


 しかし下から睨みつけているサスケも涙を溜めていてかっこ悪いのはお互い様だ。


 なんだかそんなサスケがとてもいじらしく見えて、カカシの胸が熱くなった。


「動いていいか、サスケ」


「早くしろ」


 やはりサスケはサスケだ。


 どこまでも強情っ張りでどこまでも愛らしい。


「じゃ、お言葉に甘えて…」


 ぐいっとギリギリまで腰を引き、そしてまた奥まで突き入れる。


「ひぁ…っ」


 サスケが慣れるのを待つように、それをゆっくりと何度も繰り返す。


 やがて下肢からは耳に届くほど濡れた音が漏れ始めた。


 互いの先走りが混ざり擦れ合って、結合部分をよりスムーズに行き来出来るまでになる。


「もう痛くないだろ?」


「わ、分かんね…っ」


 もう痛みなのか圧迫感なのか分からない。


 ただ、初めての未知の感覚に困惑しながらも、支配されつつあるのも分かっていた。


「んあぁ…っ!」


 突然サスケが大きく喘いだ。


 カカシは目を眇めると、其処を攻めるように突き立てる。


「ひっ、いっ…あ、あああっ」


 己の止まらない嬌声に、サスケは必死になって自分の口を塞ごうとした。


 だがそれもカカシの手によって阻まれ、開け放した口からは何度も甘美の声が漏れた。


「あ、あんっ、カ、カカシぃ…っ」


 止め処なく流れ出す涙が綺麗で、カカシは見惚れながら何度も腰を揺する。


「可愛い…サスケ…」


 小さなサスケの中は熱く、絡みつくように厭らしく伸縮を繰り返した。


 浅い息を吐き出しながら、カカシは更にサスケに覆い被さり腰の動きを早めた。


 激しくなるサスケの喘ぎを耳にしながら、ひたすら腰を使い何度も擦り上げるように突き立てた。


「カ、カカシ…ひ、あ…だ、だめだ…もうっ」


「ああ。俺もだ」


 カカシはサスケの唇に噛み付くようにキスをした。


「んん…っ、ふ、ぁ…んっ、んんんあっ!」


 サスケの内壁がビクビクと大きく震え、カカシの腹に熱い迸りが飛び散る。


 その後を追いかけるように、一際奥を抉ったカカシもサスケの中に欲を放った。


「あ…はあ…っ…」


 どっとサスケの上に倒れこんだカカシが、やがて身を起こし呟いた。


「悪いサスケ…。中に出しちまった」


「とにかく抜け…」


 まだ埋まったままの状態を非難され、カカシは苦笑いを浮かべてずるりと自身を抜き取った。


「ん…っ」


 突然可愛い声を出され、カカシは目を見開きサスケを見た。


「…んだよ」


「あ…え、えっと…とりあえず中に出したモノを掻き出すね」


 掻き出すの意味が分からず首を傾げるサスケに、カカシはヘラヘラ笑いながらサスケの体をひっくり返して尻を高く抱え上げた。


「な…っ!」


 恥ずかしい格好に驚いて顔を向けようとするも、男の大きな体に押さえ込まれて侭ならない。


「サスケ…」


 またずるりと熱い塊が押し込まれる。


「……っ!」


 最初の挿入よりは幾らか馴れたかと思われたが、それでもキツイ内壁にカカシは眉間に皺を寄せた。


「てめ…え、掻き出すって…っ」


「はは…ごめんね。サスケが可愛い声出すもんだからまた勃っちまったのよ」


 露骨な物言いに思わず顔を赤らめ、サスケはカカシを睨みつけた。


「この…変態教師…っ!」


「へえ…俺のこと少しは先生だと思っててくれたんだ」


 ぐっと奥を突けば、サスケは息を詰めて仰け反った。


 前にカカシの手が回り、煽るように扱かれればサスケの憎まれ口も喘ぎとしか意味をなさなくなる。


「はあ…ん、ふぅ……」


 ガクガクと容赦なく打ち込まれ、サスケは四つん這いの格好でなすがままに揺さぶられ続け
た。


 気持ちの良い箇所があるのが自分でも分かる。


 そこを重点的に擦るカカシの熱棒に翻弄される。


「あぁ…カカシ…カカシぃ…っ」


 何度も呼ばれるたびに、カカシの口元が緩んだ。


「カカシ先生、でしょ」


「うるせ…う…あっ」


 サスケの先端から新たな欲望が溢れ始め、パタパタと毛布の上に滴り落ちた。


「次は外に出すからな」


「ひぃ…く…あ、あああぁっ!」


 月の下、サスケの絶叫が轟いた。


 







「今日は満月だな」


 重吾の声に、その場にいた三人が一斉に顔を上げた。


「ふん。だから何さ」


 香燐がつまらなそうに鼻を鳴らすと、「情緒がないねえ香燐は」と水月が皮肉めいたように笑う。


 案の定始まった二人の喧嘩にやれやれと肩を竦めた時、ふと見たサスケの横顔に重吾が目を瞬かせた。


「どうした? サスケ」


「…俺は月が嫌いだ。誰かを思い出す」


 思わぬ科白に、重吾は目を見開いた。


「誰だ?」


「昔の知り合いだ。俺のことを月みたいだと言いやがった」


「…そうか。俺は月が好きだぞ」


「……」


「静かに輝く、優しい光だ」


 カカシと同じことを言う。


 闇から手を差し伸べたくなると言っていたカカシ。


 全部受け止めてやると言っていたカカシ。


「…ふん」


 サスケは見ていた満月から目を逸らすと、踵を返し行ってしまった。


 その口許がほんのり吊り上がっていたのを、重吾は見なかったふりをした。



                                   【終】








あとがき

 ただのセクハラ教師話になってしまい申し訳ありません(土下座)
 実は私は最初、カカサスの人間でした(爆)いや、今も好きですけどね。その後カカシ先生に惚れてどんどん捻じ曲がって行きました(笑)ナルト達がどんどん強くなって男前になって行くに連れてカカシ先生が受け臭く見えて…ゴホンゴホン。攻めでも受けでもカッコイイですよカカシ先生。サスケはヤンデレになるほど好きです(おい)もっともっとこの二人のやり取りが原作で見たいです。キッシーテンテーお願い!(こんな後書きがあるか)




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 サスケは見ていた満月から目を逸らすと、踵を返し行ってしまった。

 その口許がほんのり吊り上がっていたのを、重吾は見なかったふりをした。



                                   【終】








あとがき

 ただのセクハラ教師話になってしまい申し訳ありません(土下座)
 実は私は最初、カカサスの人間でした(爆)いや、今も好きですけどね。その後カカシ先生に惚れてどんどん捻じ曲がって行きました(笑)ナルト達がどんどん強くなって男前になって行くに連れてカカシ先生が受け臭く見えて…ゴホンゴホン。攻めでも受けでもカッコイイですよカカシ先生。サスケはヤンデレになるほど好きです(おい)もっともっとこの二人のやり取りが原作で見たいです。キッシーテンテーお願い!(こんな後書きがあるか)