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その日はやけに冷えた空気が漂っていた。
風もないのに里を囲む森がなんだか騒がしい。
まだ陽も昇りきる前の暗い早朝。
二人の若い門番が、里の巨大門の向こうで弱々しく戸を叩かれた音にはたと顔を上げる。
門を開けたと同時、どっと倒れ込むように入ってきた一人の男に目を丸くして驚いた。
「おい! 大丈夫か」
暗部の忍服を纏った男は、面は途中で落としたのか素面だった。
破れた服の隙間から見える傷はそれほど深くはないようだが、寝ずに走って来たのだろう。かなりの体力を消耗している。
「ほ、火影様に…これを…っ」
門番たちの気遣いを顧みず、男は懐から薄汚れた巻物を取り出した。
「盗まれた禁術の書です。取り返してきました。我々カカシ部隊は二人死亡。隊長は一人残り今も敵と交戦しています。どうか増援を…っ」
息切れしながらも捲くし立てるように訴えた忍は、ついに力尽きたようにこの場で気を失った。
「おい! しっかりしろ!」
ぐったりと動かなくなった忍を支えながら、門番の一人が「俺はこいつを病院へ運ぶ」と言い、もう一人は託された書物を持って火影邸へと飛んだ。
火影執務室に飛び込むように駆け込んできた門番の姿に、其処にいた数人の幹部たちが一気にざわめいた。
「火影様、戻ってきたカカシ班の隊員からこれを預かりました」
「おおっ! 取り戻したか!」
巻物を見て誰もがほっとしたように歓喜の声を上げる。
「それで、隊は?」
火影の椅子に座っていた若い男が険しい表情で先を促した。
「そ、それが戻ってきたのは一名だけでして、二人はやられてしまったようです」
さあっと一気に室内が凍りつく。
「カカシ隊長は一人残り、まだ応戦中とのこと。一刻も早く増援部隊をとの要請です」
早口で捲くし立てる門番に、火影が目を剥いて立ち上がった。
「よし、オレが行く」
「ならぬ!」
突然飛んだ檄に、金髪の男がびくりと肩を揺らし音源へと振り返った。
「お前は火影ぞ、ミナト。此処で指揮をし、皆を誘導するのが役目。動くのは部下でありお前は此処を離れてはならん」
眉間の皺をさらに深くし、三代目火影の厳しい言葉が紡がれる。
四代目火影のコートを纏ったミナトは、悔しげに歯噛みし震える拳を握り締めた。
「…わかりました」
ミナトは立ち上がった椅子に、またどかりと座り直した。
それから室内は一斉に人が動き回り、指示や情報を集める声でたちまち騒がしくなった。
目を閉じてじっと動かなくなったミナトを、三代目は肩越しに見て小さく溜息を吐いた。
僅かに里に残る若い忍たちを集結させると、挨拶もそこそこにすぐにカカシの増援部隊が発った。
やっと静かになった火影室には、ミナトと前任の三代目火影のみが残された。
「カカシならきっと大丈夫じゃ。お前もあやつの師匠ならカカシを信じて…」
そう言って振り返った三代目の目に映ったのは、もぬけの殻になった火影用の椅子だった。
「先までいたのは影分身じゃったか…」
やれやれと呆れたように三代目は煙管を深く吸い込んだ。
森の中、目の前に倒れて動かなくなっている男を、他国の額宛てをした忍たちが取り囲み、観察するように見下ろしていた。
一人の男が足先で蹴り上げ、うつ伏せになったそれを仰向けに転がせる。
「…死んだか?」
「いや。まだ息はある」
男が土埃で汚れた銀色の髪を引っ掴み、ひび割れた狐面を取り払った。
完全に意識を失っているのか、眉根一つ動かさない彼は顔の半分は口布で覆われていて、その下で僅かに息を漏らしている。
「まだガキじゃねえか」
「しかし隊長と呼ばれていたぜ。木ノ葉はこんなガキに部隊を任せるほど人員不足らしい」
嫌味ながらに嘲笑する男に「早く殺せよ」と周りがはやし立てる中、横から別の声が割って入った。
「だがオレ等の仲間も殆どコイツにやられちまったのは事実だ。それにオレは見た。コイツ写輪眼を持ってやがる」
「写輪眼? マジかよ」
一斉にどよめき、再び銀髪の少年に目が集まった。
「うちは一族は殆ど黒髪と聞いたが…」
「写輪眼と言っても片目だけだ。その傷のある方の目だ。多少うちはの血を引いているのか、それとも移植したか」
「移植、か」
少年の髪を引っ掴んでいた男がニタニタと笑い、思いついたように仲間に振り返った。
「コイツは里に連れて行こう。巻き物は取られちまったし、このまま帰ったらオレ達も頭領に殺されかねねえ」
男の声に途端緊張が走り、ごくりと周りが息を呑む。
「だが、コイツの写輪眼を土産にすれば…」
ああ、いい考えだと全員が希望の光を見つけたように盛り上がり始めた。
大柄の男がひょいと少年を肩に担ぐ。
そのまま闇夜に揉まれる月のように、銀色の髪は漆黒の森の中に引き込まれ、やがて見えなくなった。
―――嫌な予感がする。
直感的にミナトはそう思った。
瞬身の術を発動して次々と木々を飛び越える。
三代目の忠告を無視したのは初めてだ。
ミナトはまだ火影に就任して間もない。
今までの火影の中でも飛び抜けて若く経験値も浅いことから、まだ里の上部ではミナトを認めていない者も少なくない。
それでも火影に選ばれたのはまだ健在だった三代目が若いお前にだから里を任せたいと強く願い、上層部に掛け合ったのが理由だ。
三代目にはまだ教わることも多くあり、いつも共に火影室に滞在してくれた。
その三代目を騙すように里を離れたからには、帰ったらたっぷり絞られるだろう。
それでも、今回ばかりは胸騒ぎを覚えて仕方なかった。
増援部隊は直ぐに結成され出発したに違いないが、彼らを決して信じていない訳ではなく、ただ時間が惜しかった。
瞬身の術を使える自分なら彼らより早く到着できるはず。
味方も二人やられたと言う事は、敵は相当の手練か、かなりの人数がいると思われる。
カカシの事だから必ず任務を遂行するようにと指示を出し、どうにか一人だけでもと逃がしたに違いない。
――カカシ。無事でいてくれ。
ミナトはただその言葉だけを胸の内で繰り返していた。
太陽の光が木々の隙間から零れ出し、朝日が昇る。
戦闘があったと思われる場所に辿り着いた時、ミナトは怪訝に顔を歪め周りを見回した。
「…いない」
確かに戦いの跡は多く残されており、カカシがいた気配も残っている。
だが、探しているはずのカカシの姿は何処にも見当たらない。
――まさか…連れ去られたのか?
ミナトの中で嫌な予感がみるみる膨れ上がっていく。
ミナトは土に触れ目を閉じ、ともかく人の気温を少しでも探ろうと集中した。
二時の方向に微かながら人が通ったような形跡がある。
ミナトは僅かの可能性を信じて走り出した。
白い世界の中で遠く、人が立っていた。
一人、二人…。
近付くほどに人数が確かになり、顔もおぼろげに見え始める。
――オビト…リン…。
よく知っている二人の顔。
優しく微笑んで此方を見ている。
不意に、ぽんと肩の上に人の手が乗せられた。
振り返ると、眩しい金髪を靡かせて笑みを浮かべているミナト先生が立っていた。
――先生。
「カカシ。大丈夫」
いつも言われている言葉。
オレがついている。オレが死んでもお前を守る。
先生はいつもそう言う。
だがオレはその度に「自分の身は自分で守ります」と言ってその手を振り払った。
先生はその都度、困ったように無理矢理微笑んだ。
言ったことはないが、先生はもう里を守る歩ではない。玉だ。
一忍のオレに構っている暇はない、里の民全員を守らなければいけない。
そして逆に…。
オレは再びオビトとリンへ振り返った。
だがもう彼等は消えていて、それでもオレは其処に向かい呟いた。
――オレが先生を、火影を守るから。
白い世界で、二人が笑ったような気がした。
不意に、何処からか高らかな笑い声が耳をついた。
同時、世界がぐにゃりと歪み、意識が現実へと引き戻される。
ゆっくり瞼を持ち上げると、横から聞いた事のない声が耳に届いた。
「お、やっと起きたぜ」
焦点の定まらない視界の中、数人の見知らぬ男たちと目が合う。
「う…っ」
髪の毛を引っ張られて思わず唸ると、男たちは下品な笑い声を上げた。
――何処だろう。そしてこの男たちは…?
思わず浮かそうとした体は後ろ手に縄で縛られており、体は鉛のように重く、動けば肌を鋭く刺すような痛みが走り抜けた。
「まだ動けないだろ。あちこち怪我してる様子だし、チャクラも使い切ってるんだろ、隊長さんよ」
にやにやと笑っている男の額には他国の額宛てがあった。
どうやら敵の陣地に運ばれてきたらしい。
カカシは目まぐるしく最後の記憶を遡った。
確か、敵から巻き物を奪い返した後、味方の一人にそれを託し戦陣へと自ら飛び込んだ。
仲間を二人失ったのも覚えている。
辛さと悔しさの念に押されるように、オレは複数の敵と交戦した。
チャクラが完全に尽きた頃、目の前が急に暗くなってついに倒れた。
敵に囲まれ、薄れゆく意識の中で最後に思ったのは…
――オレもここまでか。先生、ごめんなさい…。
その後の記憶はない。
しかし、今生きている。
また死に損なったのか、とカカシは自嘲するように少しだけ笑い口を開いた。
「…早く殺せばいいものを。オレは里の情報なんざ一切知らない下っ端だ。人を見る目もないのか。霧隠れの忍びは間抜け揃いだな」
わざと悪態を吐くと案の定ぶたれた。
「お前みたいなガキに情報を求める気はハナからねえ。俺たちが欲しいのは、お前の写輪眼だよ」
「――っ!!」
カカシは驚いて思わず両目を見開いた。
「そうそう。その写輪眼だ」
ほう、これが噂の写輪眼か。と他の男たちも好奇の目でまじまじとカカシの顔を眺める。
「巻き物は奪われちまったが、その写輪眼を持ち帰れば俺たちの長も大目にみてくれるだろうよ。だが此処には移植する道具もなければ医療忍者もいねえ。お前が殺しちまったからな」
「……」
「だから里に連れて帰る。目玉を抉り取った後はお前さんの望み通り殺してやるよ」
ぞくりと背筋が凍りついた。
震える体を悟られないよう、奥歯を強く噛み締める。
それから男たちはカカシを無視して酒盛りを始めた。
テントの中には自分の他に、男が三人。
外にも仲間がいると思われる。
今の体力と状況を考えると、脱出するのはまず不可能だろう。
蝋燭の明かりの下、狭い空間で酒の匂いが立ちこめていた。
鼻の利くカカシには匂いだけで酔いそうだ。
男たちは真っ赤な顔をして楽しげに酒を飲み交わしていた。
何が面白いのか笑い声は途切れることがない。
酒場と化したテント内で、自分ひとりがこの中で線を引いたように放置されている。
――舌噛み切って死のうかな…。
どうせこのまま敵国の里に連れて行かれて死ぬ運命。下手に情報を聞き出されないためにも此処で死んだ方がマシだ。
――父さんと同じ死に方になっちゃうな。先生には怒られるだろうけど…。
カカシは薄ら笑いを浮かべて舌の上に歯を立てた。
しかし体力が限界に達している影響で、なかなか力が入らない。
それとも無意識に臆病な自分が力を制御しているのだろうか。
「……っ」
震える歯を無理矢理にでも舌に食い込ませる。
少しだけ血が滲み始め鉄の味が口腔に広がり始めた時、
「おい、何してる」
突然頭上から男の声が聞こえ、ぐいと髪を引っ張られて上向かせられた。
「このガキ、舌噛み切って死のうとしてやがった」
男が後ろの仲間に振り返り、カカシを見せつけるように顔を突き出させた。
「油断も隙もあったもんじゃねえな。猿轡でもしとけ」
リーダー格と思われる大柄の男が酒の盃を持って指示をする。
分かったと頷き、カカシの頭を持った男がそこ等に投げ出してあった包帯を引っ掴み、カカシの口布を首までずり下げた。
「…ん?」
ふと、男が手を止めてカカシの顔をじろじろと覗き込む。
「なんだ? どうした」
「いや、コイツ。案外可愛い顔してっからよ」
男の言葉にどれどれと酔った男たちが群がり始めた。
「ほう、なかなかだな。こりゃ男娼にもなれるんじゃねえか」
「売り飛ばすのも良いかも知れねえな」
「バカ言え。仮にも隊長クラスの手練だ。手の縄解いた途端殺されかねねえぞ。コイツは里で取るもの取ったら殺す」
「まあまあ、その前にちょっくら遊んでもいいんじゃねえか」
各々の言葉の意味も分からず、至近距離で沸く不快な酒の匂いにカカシはただ耐えているだけだった。
突然、忍服に手が掛かり、びりっと破られた。
驚いたカカシが青褪めて男たちの顔を見上げる。
「死ぬつもりなら、俺たちの役に立ってから死ね」
どくんと大きく心臓が脈打った。
未知の恐怖がどんどん膨れ上がり、カカシの本能が逃げろと叫んでいる。
「おうおう、こんなに怯えて。自害する勇気はあるくせに犯されるとなるとさすがに生娘みたいな顔しやがる」
「正真正銘の生娘だろうが。ま、男だが」
男たちは派手な笑い声を上げながらカカシの衣服を次々と剥いで行く。
「や、やめろっ」
今までにない恐怖にカカシは青褪め、震え上がった。
後退りしようにも背後から別の男に押さえつけられていて侭ならない。
「見ろよ、毛もまだ生え揃ってねえ」
「こういう大人になる直前の体が一番良いんだよ」
男たちは厭らしく笑いながらカカシの体を遠慮なく弄り始めた。
気持ち悪くて体を捻るも、男はカカシの肌を楽しむように手を何度も這わせて撫ぜて行く。
後ろから伸びた手がカカシの胸の突起を摘んでグリグリ捏ね繰り回した。
「う…っ」
思わず唸ると男たちはますます興奮したようにカカシに圧し掛かってきた。
両足を持ち上げられて左右に大きく開かれると、恐怖に引き攣っていた顔が途端真っ赤に染まる。
「やめろ! バカ野郎! 変態っ!」
数々の汚い罵倒を繰り返し怒鳴るが男たちは全く止める気配がない。
それどころか、誰にも触れられたことのない箇所にぐりぐりと何かが無理矢理に入ってくる。
男の指だと分かるのに数秒を要し、苦しさと屈辱で涙が浮かび上がる。
「やっぱり入らねえな。なんかで濡らさねえと」
突然男が酒瓶を手にし、カカシの両脚を高く持ち上げた。
「ひ…っ!」
晒された後孔に顔を赤くする暇もなく、酒瓶の口が無理矢理突っ込まれる。
どくどくと酒の液体が注ぎこまれ、直に腸へと流し込められる不快感に吐き気を催す。
「お前も遠慮なく飲めよ。酒盛りはみんなで楽しむもんだ」
複数の男たちの卑下た笑い声がカカシを囲んで響き渡る。
抱えられていた両脚を下ろされると、また何かが後孔を割った。
「あ……」
ずぶりと入ったと同時、再び押し込められた指が乱暴に中を弄り始める。
一本二本とそれは増えて、もう痛みさえ分からなくなっていく。
やがて足を大きく割られ、男が圧し掛かってきた。
指とは違う太さのものが骨を砕くように挿入してくる。
信じられない痛みに声にならない声を上げ、侭ならない体を捻り必死に抵抗しようとするがもはや無駄な足掻きだった。
「う、うぅ…っ」
それからは獣のように男たちに揺さぶられ続けた。
散々流れた涙は乾ききって、抵抗する気力はまるで残っていなかった。
酒のせいか意識は朦朧とし、下肢は麻痺して痛みすら感じない。
まるで薬漬けにされた廃人のようにされるがままだった。
「おい、早く代われよ」
頭上で交わされる男たちの会話を他人事のように聞いている。
零れ出る声は生気を失い、体を貫かれるたびにひ弱な音を漏らした。
何も考えられなくなり、死んだように一点だけを見つめていた虚ろな目をそっと伏せる。
――先生…。
唯一浮かぶのはかつての師匠の笑顔。
何故そこで先生の顔が浮かぶのか。
――先生…助けて…。
カカシは自身に対し生まれて初めて人に助けを求めた。
――先生に会いたい。先生…。
出尽くしたはずの涙が再びカカシの頬を伝い落ちる。
「ははは。このガキ泣いてやがるぜ」
「おい、口開けろよ。オレのをしゃぶり…」
不意に男の声が途切れた。
ずしんとカカシの上に男が倒れこみ、目を開けたカカシの前に金色の髪を持つ男が立っていた。
夢かと思い、カカシは信じられない光景に大きく目を見開いた。
ずぶりと男の背中から刺されていたクナイが引き抜かれる。
「カカシ」
カカシは涙で歪む視界の中、目の前の人をまじまじと見つめた。
「先、生…?」
カカシの第一声に、金髪の男は一つ肯き、無理矢理に作り笑いを浮かべた。
男の足元では、今までカカシを嬲っていた男たちが倒れていた。
「遅くなってすまない。もう大丈夫だよ」
「あ……」
次の言葉を紡げず惚けたままのカカシを助け起こそうとした時、背後から騒がしい声が聞こえてきた。
「カカシ。悪いが少し待っててくれ。すぐ戻ってくるから」
テントを出たミナトは、それから襲い掛かってくる敵陣に向かいまたクナイを振り上げた。
数分後、全てを片付けて再びカカシのいるテントに戻った時、ミナトは息を引き攣らせて驚いた。
カカシがクナイで何度も死体を刺していた。
「カカシ! やめなさい!」
ミナトはカカシに駆け寄るとクナイを持った手を慌てて止める。
「コイツはもう死んでいる! カカシ!」
それでもカカシは死体にクナイを突き立てようとする。
カカシの顔は、憎悪と涙で満ちていた。
「チクショウ…チクショウ……」
何度もそう繰り返すカカシを、ミナトは辛そうに背中から抱き締めた。
「カカシ…帰ろう」
「う…うぅ……」
しゃくり上げて泣く幼い体を、ミナトは落ち着くまでずっと抱き締めていた。
カカシをおぶったまま里に帰還すると、門の前で里の人間が大勢集まってきてミナトとカカシの無事に沸いた。
「カカシ君はすぐ病院へ…!」
一人の忍がミナトが背負ったカカシへと手を伸ばした途端、びくっと大袈裟なほど驚いた彼に、誰もが怪訝に目を丸くする。
「あ、ああ。カカシはちょっと幻術にかかってしまったらしくてね、精神的にまだ不安定なようだから病院じゃなくこのまま家に連れて帰るよ」
ミナトはそう言い残すと、周りが口を開く間もなく瞬身でその場から立ち去った。
落ち着くはずの、見慣れ嗅ぎ慣れた自分の家であるはずなのに、ベッドに横になったままのカカシは何処か一点を見つめたまま全く動かなかった。
「大丈夫かい…?」
掛けた声にも反応なく、目を虚ろにしている。
ミナトは小さく溜息を吐くと、暖かな湯で絞ったタオルを持ってカカシの顔を優しく拭い始める。
「先生…」
その時、カカシが初めて口を開いた。
「なんだい?」
「顔じゃなくて…体拭きたい」
ミナトは一瞬息を詰めたが、すぐに「分かった」と頷いた。
それから静かに体を起こすカカシを手伝って、ゆっくりとカカシの忍服を脱がしていく。
露になった上半身をタオルで拭っていると、それまで黙ったままだったカカシがぽつりと呟いた。
「オレ、犯されました」
ぴたりとミナトの手が止まる。
「ごめんね…カカシ」
「なんで先生が謝るんですか」
「うん…ごめん…」
それから長い沈黙が続いた。
心此処に在らずといった様子で淡々と手を動かすミナトに対し、カカシは微動だにせずされるがままになっている。
「…もういいですよ。後は自分でやります」
不意に、カカシがそう言ってベッドから下り立とうとしたところをミナトが慌てて止めた。
「無理だよ。まだ立てもしないのに…」
「うるさいっ!!」
突然の怒鳴り声に、一瞬その場がしんと静まり返る。
「す…すみません」
「いいんだよ」
ミナトは目を和らげ優しく笑った。
「…オレ、自分に腹が立ってるんです」
「……」
「男に犯されるなんて考えもしなかった…。自分が…気持ち悪い」
「カカシは綺麗だよ」
思わぬ返しに、初めてカカシがミナトの顔を見た。
「君は何も変わってない。綺麗で純粋で、強い」
「オレは強くなんか…」
言い終わる前に、カカシの目から涙が零れ落ちた。
それから必死になって涙を止めようと手の甲で乱暴に擦るが、涙は止め処なくぼろぼろとカカシの頬を伝い落ちる。
そんなカカシをミナトがそっと引き寄せ、抱き締めた。
「いっぱい泣くといい。全部吐き出しなさい」
「う、うあぁ…っ」
カカシはミナトの腕の中で、子供のようにしゃくり上げてずっと泣き続けた。
暖かなシャワーが優しい雨のように降り注いでいる。
壁に手をついて突っ立っているカカシの体を、ミナトがシャワーを片手に汗や埃を丁寧に洗い流していた。
「下も…流さなきゃね…」
ミナトが言い難そうに呟き、カカシの小さな尻から目を背けた。
「カカシ、そこは自分で…」
「先生がやってください」
ミナトは一瞬目を見開いたが、すぐに分かったと再び手を伸ばした。
尻の割れ目に指を這わせるとカカシが一瞬竦むように肩を揺らす。
「痛いかい?」
「いいえ」
カカシは壁を向いたまま固く目を閉じた。
「カカシ…もう少し力を抜いてくれるかい?」
どうしても硬直してしまう体では指一本入らないらしい。
ミナトに言われて弛緩しようと試みるがどうしてもあの時の恐怖が思い出され、無意識に体が強ばってしまう。
「カカシ…」
ミナトは小刻みに震える少年の肩に、悲痛の面持ちで手を乗せる。
「辛い思いをしたね…」
「……」
「もう休もう。君が寝付くまでずっと傍にいるから…」
「先生」
今にも泣きそうなミナトの声を、カカシが遮った。
「…なんだい?」
「お願いがあります」
カカシがミナトに振り返り目を合わせる。
「オレを…犯してくれませんか」
カカシが風呂から出ると、部屋でミナトが背を向けて窓の外を見ていた。
いつの間にか空は鉛色に濁り、ポツポツと雨が降り始めている。
山の向こうでゴロゴロと雷の音が鳴っていた。
夏によくある夕立だ。もうすぐ激しい雨がやって来るのだろう。
「雷か…君が呼んだの?」
まさか、とカカシは少しだけ鼻で笑った。
ミナトがゆっくりとカカシを振り返ったが、どんよりと暗くなった部屋の中では表情が窺えない。
「どうして『犯して』なんて言うの」
カカシの言い方が気に食わなかったらしいミナトだが、理由は半分判っているようだ。
「心配しなくても誰にも…」
「そうじゃないだろう」
少し厳しい口調で遮ってきたミナトの言葉に、カカシは黙り込む。
「火遊びと思え、と言いたいのか」
「……やっぱりダメですよね」
カカシが諦めたように薄く微笑んだ。
「先生にはちゃんと素敵な奥様がいるし、それを裏切るような…」
「ちゃんと言いなさい」
ああまただ、とカカシは口を噤んだ。
昔からミナトは口数は少なくとも、言い訳を始めようとする言葉はいつも途中で遮られてしまう。
「…取れないんです」
「……」
「まだ残っているんです。男たちの笑い声と息遣いと…醜い男根がまだ埋まってるみたいで…。オレの中で暴れてるんです。もう何もないはずなのに…」
ミナトが苦しげに目を細める。
「気持ち悪くて吐きそうです。でも取れない…っ」
「カカシ」
「だったら先生の形だと思えば、先生に犯されたと思えばオレも…っ」
言い終わる前に抱きしめられていた。
「もういい。もういいよ」
暖かい胸に包まれて、またどっと涙が零れ落ちる。
「クソ…ッ。先生のバカ…っ」
昔から涙を見せるのを嫌うカカシを思い出し、くすりと笑うと彼の濡れた髪を梳いた。
「カカシ、座って。髪を拭こう」
ミナトは勝手知ったる人の家のクローゼットを開け、タオルを探すとそれを持ってカカシの座るベッドに向かった。
カカシの小さな頭にタオルを被せ、がしがしと髪を拭き始める。
その間、カカシは黙って布の隙間から見えるミナトの足をじっと見つめていた。
「はい、終わり。大分乾いたよ」
目の前でにっこり微笑んだミナトから目を逸らし、カカシは奥歯を噛み締めるとミナトの胸を押し退けふらつく足を叱咤して立ち上がった。
「カカシ?」
カカシは黙ったままクローゼットを開け、着替えのための服を取り出して身に纏い始める。
帰って欲しいとカカシは思った。
着替え終えたらそう言おう。そう思って部屋着のズボンを手にした時、
「何してるの?」
背中から大きな腕が回り、体を包み込んだ。
一瞬ぎくりとして顔を染めたが、すぐに平静を繕い口を開く。
「帰って下さい」
「どうして? これからカカシを抱くつもりなんだけど」
「……っ!」
驚いて振り返った途端、唇に熱いものが押し付けられた。
間近で綺麗な青いガラス玉と目が合う。
「セン…セ…」
カカシが信じられないというような顔でミナトを見つめていると、突然ふわりと体が浮いた。
いつの間にか膝裏をすくい上げられ、抱えられている。
何か言おうとするのに口が動かず、そうこうしている間に再びベッドに運ばれ寝かされた。
「あ……」
「これから汚いオレを見ることになるけど、いい?」
意味も分からず惚けたまま頷くと、ミナトが優しくふっと笑い、またカカシの唇にそれを重ねる。
口腔をミナトの熱い舌が這い回る。
薄目を開けて、カカシはじっとミナトの顔を見つめていた。
閉じていたミナトの瞼が上げられ、目が合うと困ったように苦笑される。
「キスは目を閉じるものだよ」
カカシは何も言わずやはりミナトを見つめたままだった。
綺麗だと思った。
ミナトの顔は昔から知っているはずなのに、こんなにも美しい顔立ちをしていたのかと今更ながらに驚く。
幼い頃から行動を共にしていると道行く女性たちがちらちらと頬を赤らめながら彼を見ていたのを知っている。
手を引かれながら、「先生のこと見てるよ」と言ったらミナトは「カカシが可愛いからだよ」と言って笑っていた。
「…カカシ?」
はっとして遠い記憶から呼び覚まされ、カカシは顔を染めて目を反らした。
「お前が誘ったんだろう」
「……っ」
思わぬ言葉に耳を疑い、その音源へと目を向ける。
丁度その時、雷鳴と共に稲光が瞬き、ミナトの顔を一瞬浮かび上がらせた。
ミナトは怒っているようだった。
「セン…セ…」
「他のことは考えるな。集中しなさい」
それは滅多に見せない師の厳しい表情だった。
しかし、修行を受けていた時とは違う。明らかに内面で苛立っている様子が伺える余裕のない、切羽詰った顔だ。
こんな彼を見るのは初めてだった。
カカシは徐々に怖くなった。
今まで見たことのないミナトを見ることになるような気がした。
「あ……」
青くなって無意識に怯んだカカシの体を、ミナトが強く押し付けてきた。
全身に重みを感じ、ぴたりと一部の隙もなく抱きしめられる。
その中で、一際熱く昂った部位に気付き、カカシは途端に頬を赤らめた。
「お前が…こうしたんだ」
耳元で低い声が熱い吐息と共にカカシの鼓膜を突き抜ける。
びくりと息を止めるカカシに、ミナトがゆっくり体を起こし視線を合わせた。
ミナトはもういつもの顔をしていた。
穏やかに微笑む、いつも見ていた慈しむような優しい眼差し。
「先生…」
ほっとしたカカシは思わず顔を綻ばせ、ミナトに手を伸ばす。
手の甲に口付けられた後、ミナトは再びカカシに唇を合わせてきた。
それからはただ黙ってミナトに抱かれた。
ミナトの手は絶え間なくカカシの体を這い回り、白い肌に赤い刻印を残す。
体内を堪能するように抉られ、揺さぶられる度にカカシは引切り無しに喘いでミナトの背中に爪を立てた。
しかし何度果てても、ミナトはカカシから離れようとしなかった。
常に腰を押し付け、カカシの体に密着したまま動きを止めようとはしない。
もう止めて下さいと訴えても、ミナトは聞く耳持たずでカカシを揺さぶり続けた。
カカシはもはや犯された記憶などとうに失くなっていた。
目を開ければ目の前にいるのは汗だくになって自分を見つめている青い目。
先生も汗を掻くんだと揺れる視界の中でぼんやりと思う。
聞こえるのはミナトと自分の荒い呼吸と、外でしきりに降り続く雨の音。
何度目かの射精を迎えた時、カカシはついに気を失った。
朦朧とする意識の中で、ミナトの声が聞こえた。
「愛しているよ」
それが夢だったのか現実だったのか分からないまま、カカシは意識を手放した。
目が覚めたのは昼過ぎだった。
ぼんやりとした視界で頭を動かし部屋の中をぐるりと見渡しても、人の気配はまるでなかった。
急に物悲しくなり息を吐く。
疲労感が残る体をどうにか起こしてベッドから降り立つと、中央のテーブルに大きな買い物袋と書置きがあるのに気付いた。
『おはようカカシ。よく休んでね』
そのメモの横には下手な自分の似顔絵が描かれていた。
思わずくすりと笑い、買い物袋を覗き込めば大量のパンが嵩となって詰めてある。
「オレ、甘いの苦手だって言ってるのに…」
チョコレートにくるまれたパンを手に持ち、カカシはまた小さく笑った。
その夜、暇を持て余してベッドでウトウトしていると、薄らと開けた視界に誰かがベッドの淵に座っているのに気付いた。
「先…生…」
「ごめん。起こしたかい」
振り返ったミナトの顔を見て、カカシは無防備に微笑んだ。
「飛雷神の術、ですか」
「ん」
「いつの間に」
「昨日カカシが寝ている時、君の背中にね」
カカシは呆れた笑顔を浮かべると、体を起こそうとした。
だが直ぐに鈍い痛みに襲われ、顔を顰めると慌ててミナトに制される。
「無理しないで。本当は入院するくらいの体調なんだよ」
「はは…そうでした」
素直に再び横たわると、ミナトは安心したようにカカシの乱れた髪を手直しする。
「職務はどうしたんです? 火影って忙しいんでしょう」
「年中忙しい訳じゃないよ。それよりご飯は食べたの?」
「昼はガイ達が来て色々食べさせられました」
「ああ、だから台所がメチャクチャなんだね」
アイツら…と恨みを込めて目を据えたら、ミナトは肩を揺らしてクスクスと笑った。
「カカシは慕われているね」
「オレみたいなぶっきらぼうな奴の何が良いんだか」
「カカシは変わったよ」
え、とカカシは目を上げた。
「目が柔らかくなった。優しくなった」
「……」
「オビトやリンみたいに」
ミナトは伏せていた写輪眼の左目に手を伸ばすと、傷を追うように優しく撫で上げた。
そのまま顔を近付け、カカシの瞼に口付ける。
「カカシ…」
ミナトがベッドの上にのし掛かり、スプリングが軋んだ。
「せん…」
「ダメ…かな?」
ミナトの息遣いが荒い。
カカシは熱い吐息を受けて自分も呼吸が乱れていくのを自覚する。
「い…です」
それから激しく口付けられ、濃厚なキスをされる。
「んん…せん、せ…」
「カカシ…カカシ……」
ベッドの上で激しい情交が始まり、カカシは何度も声を上げ続けた。
それから二週間、カカシは回復するまでの間家で過ごした。
夜になるといつもミナトが現れ、カカシと夜を共にする。
カカシの回復が遅くなるからと一旦行為は止めようとするミナトを、カカシ自ら強請って引き寄せる。
一度知った温もりから既にカカシは逃れられなくなっていた。
完全に回復し復帰すると、当たり前だがミナトは家に来なくなりカカシも長期任務で家を空けることが多くなった。
たまに火影邸に赴くことがあっても任務命令や報告書の提出をして退出するだけ。
以前と全く変わらず淡々と仕事をこなす日々。
一抹の寂しさを覚えるカカシとは正反対に、ミナトまるであの関係を忘れたかのように通常に接する。
カカシは、あの夜な夜なの出来事は夢であったのだと思い始めていた。
心も体も弱りきっていた自分にただ同情しただけ、強情な弟子の我侭を聞き入れただけに過ぎない。
元々先生には妻がいるし、それを承知で誘い込んだのは自分だ。彼は何も間違っていない。
――オレ、馬鹿みたいだ…。
変な期待をした自分はなんて未熟で愚かなのだろうと自分を詰った。
あれから一ヶ月が経過した。
カカシも任務に専念することで徐々に本来の自分を取り戻してきた。
そんなある日、ミナト直々に火影邸に呼ばれた。
いつもの最上階にある火影執務室ではなく、階下にある一室だった。
カカシが少し躊躇気味にドアをノックすると、「どうぞ」というミナトの声が聞こえた。
「失礼します…」
「ん。よく来たね」
初めて入る部屋は、書物が並ぶ本棚や小さなソファ、机が中央にあり、まるで私室のような家具が並んでいた。
ミナトは大きな窓の外を眺めるように背中を向けて立っており、表情は窺えない。
「ご用件は何でしょうか、四代目」
「今日は雨だね…」
予想外の科白にカカシは一瞬眉を潜めたが、直ぐに「そうですね」と感情なく答える。
もう日が沈む時刻だが、雨のせいか外も中も湿気を帯びた空気が漂っている。
ミナトがゆっくりと振り返りカカシと目を合わせてきた。
薄暗い部屋と唯一の光源である濁った曇天は逆光になっており、表情は分り難いが、鮮やかに光る青い目だけがやけにはっきりと此方を見つめている。
ふと、カカシはこの光景に見覚えがあることを思い出した。
――ああ。オレの部屋にいた先生の姿だ。
「あの時も雨が降っていた」
一瞬自分の心を見透かされたのではないかと、ぎくりとしてカカシは肩を揺らした。
だが直ぐに気を取り直し、冷静なふりをして目を背ける。
視線を外していると、ミナトが靴を鳴らして近付いてくる気配がした。
体が緊張で硬直してくる。
目の前に来たミナトをそろそろと仰ぎ見ると、いきなり腰に手を回し引き寄せられる。
間近で見たミナトの目は潤み、情欲に満ち溢れていた。
接近した口元からは熱い息が漏れている。
カカシは動揺し、思わず息を飲んでミナトを凝視した。
「必死に自分を抑えていたつもりなんだけどね、限界みたいだ」
「……」
「雨の日はお前を思い出す。あの出来事をなかったことになんて出来ないよ」
カカシは内心仰天した。
ああ、自分だけではなかった。この人も、忘れてはいなかった。
だがそう思ったのは一瞬だけで、カカシは緩く頭を振ってミナトの体を押し退けた。
「あ、あんなのただの遊びですよ。オレ、体が弱っていたからどうかしてたんです」
「……」
「そんなことで呼び出したんなら、オレ帰ります。疲れているので」
カカシは踵を返すと直ぐ後ろにあったドアノブに手をかけた。
「カカシは大人だね」
背後の声に手が止まる。
「遊びと本気の区別がつかないオレは、子供なのかな」
静かに後ろを顧みると、澄んだ青目の男と目が合う。
カカシの中でまた葛藤が渦巻き始める。
頭の中では理性を保とうとするのに、心はその目に吸い込まれそうになる。
「ごめん。そんな顔をさせたかった訳じゃないんだ」
そう言ってミナトの手がカカシの口布に掛かり、ゆっくりと剥いでいった。
「先、生…」
「ん…?」
カカシが喋る機会を与えてくれる。
優しく見つめる青い目は、いつまでもカカシの言葉を待っていてくれるようだった。
「オレ…どうしたら…」
「何も考えなくていいよ」
カカシは納得できず、沈痛な面持ちで視線を反らした。
「はは。オレは君を困らせてばかりだな。本当に子供だ」
「……」
「そのまま、甘えてもいい…?」
カカシが再び目を向けたと同時、唇にミナトのそれが重なった。
薄く開いた唇を強引にミナトの熱い舌が割って入り、ねっとりと口腔を犯される。
「んん…っ、せ、んせ…」
「カカシ…」
長い口付けは時間の経過も忘れるほどに長く続いた。
いつの間にかカカシの手もミナトの背中に回り、四代目火影と書かれた羽織を皺が出来るほどに握りしめていた。
途中カチャリと鍵を締められた音を聞いた気がしたが、直ぐに気持ちはミナトへと移り変えられてしまう。
気付けば、部屋中央のソファに横たえられており、切羽詰ったように互いの服を剥いでいた。
窓から射す僅かな夜光と、飽きることなく降り続ける雨の音。
薄暗い部屋は冷え切っているはずなのに、それでも熱く、互いの息が入り乱れている。
「先生…あ、あ…っ」
「カカシ…カカシ…」
ソファの上で、他の言葉を忘れてしまったかのように互いの名だけを繰り返す。
何度果てても体の火照りは治まらず、執拗に相手を求めて貪りあった。
雨は少しだけ勢いが弱まっていて、今は優しく窓ガラスを叩いていた。
「ねえ、先生。この部屋…」
ベッドの中でミナトの胸に凭れながら、カカシが遠慮がちに呟いた。
ミナトは上半身を起こした状態でカカシを見下ろし、微笑を浮かべてああ、と返す。
「火影専用の仮眠室みたいなもの。事態によっては邸から離れられない時もあるからね。先代の火影様たちもみんな利用してた」
「こんな場所に一忍の者を招き入れていいんですか」
「本当はダメなのかも知れないけど、いいんじゃない。今の火影はオレだし」
悪びれなく笑うミナトに対し、カカシは後ろめたい表情を浮かべる。
「もしかすると、先代火影も此処で情婦と密会とかしてたのかも知れないよ。プライベートルームってそんなものでしょ?」
「先代様達がそんなことするわけないでしょ。きっと先生だけですよ」
「あははは。やっぱりそう思う?」
ミナトがさらに笑うので、釣られたカカシもつい笑ってしまった。
暫く二人で笑い合い、穏やかな空気が流れる。
落ち着いた頃に、ミナトはカカシの頭を抱き寄せて自らの肩口に押し付けた。
「自分を曝け出すってのがこんなに気持ちいいものだとは思わなかった」
「…?」
きょとんとしてカカシがミナトを見上げる。
「かっこつけずに解放出来る場所が出来た。カカシのおかげだよ」
「今までかっこつけてたんですか?」
「そりゃそうだよ。いい先生になろうと、いい火影になろうと皆から信頼を得るために猫被ってた所だってあるさ」
「…まあ確かに、先生があんなに性に貪欲だとは思いませんでしたが」
「だってしょうがないじゃない、止まんないんだもの。カカシだって、あんなに可愛い面を持ってるとは思わなかったよ」
「んなっ!」
先程までの痴態を振られたようで、カカシは途端真っ赤になって体を起こそうとした。
だがすぐに遮られるように頭をミナトの胸に押し付けられる。
「好きだな、カカシのこと…」
うっとりと囁いたミナトの胸の上で、カカシは目を伏せて言いにくそうに呟いた。
「先生には奥さ…」
言い切る前に、唇にミナトの人差し指が押し当てられた。
「何も考えるなって言っただろう?」
「……」
「オレはお前が好きだ。今は一人の男でいさせてくれ」
そう言うと、ミナトはカカシの髪に顔を埋めて動かなくなった。
やがて安らかな寝息が聞こえ始める。
カカシは黙ったまま、ミナトに縋るように手を回しゆっくりと目を閉じた。
あれから何度もミナトに抱かれた。
呼び出されることもあれば、ミナト自らカカシの家に赴くこともあった。
ドアを開けると同時、二人は言葉を交わすことも忘れて互いを求め、夢中になって抱き合った。
偽りの自分から解放される瞬間を二人で分かち合う。
もう互いになくてはならない存在であることを、二人共自覚していた。
その日は夜から雨が降り出した。
カカシは長期の遠征に駆り出され、木ノ葉には随分と戻っていない日々が続いた。
夜半、カカシは一人、仲間たちの休んでいる宿を抜けて近くの森まで足を運んだ。
なんとなく雨に打たれたかっただけだが、霧雨とは言えども長く受けていれば当然体も冷えて全身湿り気を帯びてくる。
不快な感覚だが、カカシはそれでも視線を天に向けて目を閉じた。
雨の日は嫌でもあの人を思い出す。
雨と云うのは人恋しくさせる術でも持っているのか。
今は遠い里にいるあの人の笑顔、優しい声。
一度知ってしまった温もりは、カカシを捉えて離さない。
降り注ぐ雨粒は、まるで今の心情を代弁するかのように涙のように顎を伝い地に落ちた。
「オレが淋しいと思うなんてな…」
自虐的な笑みを浮かべた時、背後から唐突に気配を感じた。
驚いて振り返る間もなく、後ろから抱きしめられる。
「オレも寂しかったよ…」
聞き慣れた柔らかい声が耳元で囁かれた。
熱い体温、少し甘い匂い。
「せん…せ…」
信じられない面持ちでゆっくり振り返ると、よく知っている顔が目の前にあった。
「ど、して…」
「君の背中に印を残しておいた」
ミナトは少しバツが悪そうに笑顔を浮かべ、カカシの体の向きを変えて正面から向き合う形を取った。
「ズルイですよ…」
「術を使ったこと?」
「独り言を聞かれたことです」
ミナトはぷっと笑ってカカシを強く抱きしめる。
「こんなに冷えて…。風邪でもひいたらどうするの」
「じゃあ先生が…」
ん? とミナトが覗き込むようにカカシと目を合わせる。
「先生が…温めて…」
恥ずかしそうに顔を染めながらも、決して潤んだ目は逸らさない。
ミナトはたまらないとばかりにカカシの冷えた顔に手を伸ばし、頬に張り付いた濡れた髪の毛を退かせた。
「全く…誘うのが上手くなったね。さすがオレの一番弟子」
「関係ないでしょ。そんなこと」
「ん。カカシは飲み込み早すぎて時々吃驚させられる」
「早く先生に追いつきたいから」
ミナトは愛しげにカカシに微笑んだ後、ゆっくりと唇を合わせてきた。
合わせるだけだった口付けは、舌を伸ばすとすぐに濃厚なものへと変わった。
「あっ、ん…っ」
カカシは木に縋るように体を預け、後ろからミナトに突かれて揺さぶられる。
立ったままの足はガクガクと崩れ落ちそうになりながらも、ミナトに腰を支えられることで保たれた。
腰を打ち付けられる度、快楽が体中を駆け抜けミナトと繋がっていると実感させられる。
「い…っ、先生…もっと…あんっ、あぁ……」
「ふふ…。カカシはスケベだね…」
背後のミナトが息荒く耳元で呟く。
「う…っ、先生の、せい…っ」
「そうだね。いいじゃない、一緒にスケベになろうよ」
「先生の、馬鹿…っ」
直後、カカシの体が震え、白濁がぱたぱたと湿気った草の上に飛び散った。
いつの間にか雨は止み、森の中には虫の声が響き始めていた。
情事が終わった後も、余韻を引き摺るように軽いキスを繰り返す。
ふとミナトが唇を離して、カカシをじっと見つめてきた。
「何ですか…?」
「カカシ、また背伸びた? 目線が高くなった」
「そうかも…。オレもいつか先生追い越せるかな。背も実力も…」
「なんでも追い越せるさ。今だって同等だし…いや、オレの方が負けてるかな」
意味が分からずに首を傾げると、ミナトが悪戯っぽくカカシの耳に唇を寄せてきた。
「オレの方がカカシに首ったけになってるってこと」
カカシは真っ赤になってミナトから離れたが、それに対してミナトは楽しそうにケラケラと笑っている。
「さて、そろそろ帰らなきゃ。また三代目にどやされる」
「そうですね。ヒルゼン様は怒ると怖いですから」
「怒鳴られるのは慣れてるんだけどね、同時に飛んでくる唾が嫌でさあ」
何ですかそれ、と笑ったらミナトが「カカシの唾なら大歓迎なんだけど」と嘯いた。
「――っ! もうっ早く行って下さい!」
「あはは。じゃ、カカシ。無事に帰ってきてね。気をつけて」
カカシが照れながらも挨拶を返す前に、ミナトは得意の飛雷神の術でその場から消えてしまった。
それからカカシは自分の背中を鏡で見ることが多くなった。
ミナトが術を使って会いに来る度消える刻印も、次の日はまた新しく同じ印が刻まれている。
最初は気付けなかったが、今は印を掛けられる瞬間をはっきりと感じることが出来る。
先生が背中に手を回した時、妙に手の平の熱が高まる瞬間がある。
その時、ああ今印を残したのだと気付くのだ。
――先生、また会いに来てくれるんですね。
口では言わないが、カカシはその時ほど幸せを感じることはない。
会えない日が続いても、背中の印を見れば安心出来た。いつでも側にいてくれるような気がした。
女のような思考だと自分を笑うが、それでも、カカシにとってミナトの印は生きる糧となっていた。
気持ちの良い風の吹く中、カカシは木の葉の商店街をなんとはなしに歩いていた。
行き交う人の笑い声。元気よく走り抜けて行く子供たち。
空を仰げば秋の澄んだ晴天が広がっている。
平和だなあとつい口に乗せたその時、不意に背後から声が掛かった。
「もしかして、カカシか?」
カカシが振り返ると、長い白髪の大男が立っていた。
「自来也様…」
「いやあ見間違えたぞい。すっかりでかくなりおって」
「はは。一年ぶりですもんね。自来也様はお変わりなく」
小さな茶屋の赤い毛氈に腰掛けて、自来也とカカシは茶を啜っていた。
木ノ葉の三忍と称され、ミナトの師でもある自来也はカカシを幼い頃から知っている一人でもある。
昔から見た目も性格もでかい男というイメージがあったが、自分の目線が高くなってもその印象は変わらない。
自来也の豪放磊落な性格と自由奔放な生き方にはあの三代目も手を焼くほどだが、それがカカシには憧れる面でもあった。
「ミナトはどうじゃ? 四代目として上手くやっておるか?」
「相変わらず三代目にどやされているようですよ。いつも寝不足だって愚痴ってます」
「わははは。三代目はスパルタじゃからのう。ワシもしょっちゅう怒鳴られたわい」
「会いに行けばいいじゃないですか。自来也様の顔を見たら喜びますよ」
そうじゃのう、と自来也は人事のように呟いて団子を頬張った。
そのまま先を進めない自来也にきょとんとして目を向ける。
「カカシ。お前は図体もでかくなったが、中身も大人になったな」
「なんですか。いきなり」
いきなり話を自分に切り替えられて、面食らう。
「何と言うか…そう。大人の色香が出てきたって云うかのォ」
「はあ? 変なこと言わないで下さい」
仄かに赤らんだ顔を隠すようにそっぽを向くと、自来也は照れるな、と笑って豪快に背中を叩いてきた。
「恋でもしとるか? カカシ」
「え…」
一瞬ぎくりとして肩を竦めたのを、自来也が見逃すわけがない。
「ワハハハハ。ええのォ! うん! 恋はいいっ!」
「そ、そんなんじゃないですよ!」
あまりにでかい声で言うものだから、慌てふためいて周りを見回した。
「実はのうカカシ! ワシは今、恋愛小説を執筆中なんじゃ!」
「はあ…」
どうでもいいとばかりに目を据わらせて肩を落とす。
「テーマはずばり! 『不倫』じゃ! 」
その言葉に一瞬カカシは固まった。
「ふはははは! お前には馴染みのない言葉かも知れんが、大人の世界ではよくあることじゃ」
「……」
乾く口中を誤魔化すように、一口茶を含む。
「恋は奥深い。自分の知らなかった自分自身を見せてくれる鏡でもあるな」
「鏡…ですか?」
なんとなく興味が湧いて聞き返してみる。
それに気を良くした自来也はカカシを見て、さらに口角を釣り上げた。
「お前はガキの頃から気を張って生きていたからのォ。ゆっくり歩く術を覚えたようで、ワシも安心したぞ」
「……」
「歩くことも良い事じゃ。走っている時には気付かなかったが、花鳥草木の変化、太陽の昇り降り、道行く人の表情。立ち止まった時は足元の草履の鼻緒が切れかかっていた事にも気付ける」
「…でも立ち止まったらいろんなこと考えちゃいますよ」
「考える事は悪いことか? 人間らしくて良いではないか」
カカシは握っていた湯呑に目を落とし、緑色の液体を眺めた。
確かに自分は突っ走って生きてきた。
早く一人前になりたくて、ミナトに追いつきたくて。
彼に対し、憧れと信じていた感情が歪み始めたのはいつの頃からだったか。
体を繋げたのは強姦されたのがきっかけだったが、求めていたのはその前からだったように思う。
あの場に居合わせたのがミナトでなかった場合は、きっとそうはならなかった。
心の奥深くで押さえ付けていた感情が、あの場で一気に吹き出した。
耐え忍ぶという忍びの土台が崩れてしまった。
「カカシ?」
不意に名前を呼ばれて、はっとしてカカシは顔を上げた。
目が合った自来也は、此方を見てにっこりと微笑むと唐突に立ち上がった。
「さあて、ジジイの戯言は終いじゃ。ワシはそろそろ行く事にしよう」
「先…四代目に会いに?」
自来也は振り返ると、いいやと首を振り「このまま旅に出る」と言った。
「今日はお前に会えて良かったぞ。また創作意欲が湧き上がった!」
意味が分からず首を傾げると、やはり自来也は豪快に笑って腰に手を当てた。
がしがしとカカシの頭を撫で付けてから、踵を返して立ち去ろうとする。
「じ、自来也様!」
思わずカカシは立ち上がって自来也を呼び止めた。
自来也が振り返ると、カカシは少し間を置き言い難そうに口を開いた。
「その…小説って最後はどうなるんですか?」
一瞬自来也は目を丸めたが、その後にやりと笑って言った。
「勿論、破滅する」
「……」
「しかしな、お前を見て少しラストを変えてみようと思ったわい」
「え…」
「じゃあのォ。ミナトの奴によろしくな」
そう言うと、今度こそ自来也は下駄を鳴らし去っていった。
「え、自来也先生が来てたの?」
カカシの話に、ミナトは目を丸めて顔を上げた。
「ちょっとくらい顔出せばいいのに。先生も人が悪いな」
オレもそう言ったんですけどね、とカカシが同意を並べながらソファの上で伸びをする。
羽織を翻して外を眺めるミナトを、カカシはぼんやりと見つめた。
四代目火影と描かれた文字にはいつも静かな威厳と風格を感じる。
「今ね、自来也先生は恋愛小説を執筆中なんですって」
「またおかしなことを」
そう言ってミナトが肩を揺らし振り返る。
「テーマは不倫だそうですよ」
笑いを止めたミナトは真顔になった。
それを見て、カカシは自虐的に笑みを返すとソファの背にもたれ掛かった。
「オレガキだけど、それくらいの言葉は知っていますよ。背徳、不貞関係、道ならぬ恋…」
「……」
「しかもオレ男だしね」
ミナトを目を細めてカカシの横顔を見つめていた。
「立ち止まると色々考えちゃってダメですね。やっぱりオレは走ってる方がいい」
「カカシ…」
「先生も言ってたもんね。何も考えるなって」
ミナトは机を回るとカカシの前に行き、目線を合わせるように腰を下ろした。
「後悔しているの?」
「……」
「カカシが自分を責めることないんだよ。たまには誰かのせいにしてもいい」
くしゃりとカカシの髪を撫で、ミナトは優しく微笑んだ。
「お前から離れられなくなったのはオレだ。ごめんね、こんなに悩ませて」
カカシの目にじわりと涙が滲む。
「先生は狡いです」
「ん。そうだね」
「オレを甘やかすから」
「ふふ。そうだね」
「たまには叱って下さい」
「だってカカシはいい子だもの。叱るところなんかないよ」
もうっと振り切るようにミナトに抱きついた。
カカシの目から次々と涙が零れ落ちる。
この人を前にして何度泣いただろう。何度自分を曝け出してきただろう。
「先生を嫌いになんかなれないよ」
「ありがとう。オレもカカシが大好きだよ。これからも側にいていいかな?」
ミナトに抱きしめられながら、カカシはしゃくり上げる声を言葉に出来ず、ただ必死に何度も頷いた。
あれから数年が経った。
ミナトは九尾を抑えるために自らを犠牲にして里を守った。
一時は四代目を失った悲しみや絶望で暮れた民も、三代目火影が里長に戻り木の葉を立て直すことが被害者への供養であり残った者の義務であると訴え立ち上がった。
それにより、壊滅的な打撃を喰らった里もかなり復興し、今では元の姿を取り戻しつつある。
今も他国との問題や自里の情報を狙う忍との戦闘も多いが、それでも平和と呼べるべき状況には落ち着いたと言えるだろう。
人の心は変わり、時は混沌と過ぎて季節は巡る。
時代の流れとはそういうものなのだ。
カカシは遠征任務のため、里から離れた小さな町に来ていた。
そこは温泉の湧き出るのどかな地で、この日はカカシも暗部の仲間と共に療養も兼ねて温泉宿に一泊することになった。
「カカシ。オレたちは温泉行くけどお前も行こうぜ」
がらりと襖を開けて仲間が声をかけてきた。
普段は張り詰めっぱなしの忍びたちも、今は面や装備を外し浴衣姿でのんびりとした装いになっている。
「ああ、悪い。オレ報告書書かなきゃいけないから先に行っててくれ」
カカシが申し訳なさそうに笑って答えると、仲間たちは肩を竦めて襖を閉じた。
「カカシも真面目だなあ。報告書なんて後にすりゃいいのに」
「アイツいつも風呂に誘ったら断るよな。そんなに素顔が見られるのが嫌なのかな」
「顔なんてガキの頃はよく晒してたぜ。それより裸に自信がないんじゃねえの」
「天下のコピー忍者もあっちには自信がねえか」
無遠慮に笑い合いながら廊下を素通りして行った仲間たちを、一人の男が尻目に見ていた。
「なんです、その印」
月の光がやたら眩しい深夜に一人、湯に浸かっていたカカシに背後から声が掛かった。
肩越しに振り返ると、いつもは猫の面を被った後輩のテンゾウが立っていた。
腕を組み、興味もなさそうな冷たい目をしている彼に、カカシは相変わらずだなと静かに笑う。
「呪いですか」
今もカカシの背中にはミナトの印が刻まれている。
本来なら印をつけた本人が死んだら消えるはずなのに、何故かカカシの背中には未だに消滅することなく残っているのだ。
テンゾウがカカシの返答を待ってじっと此方を見つめている。
それにふっと笑いかけ、カカシは口を開いた。
「お守り、だよ」
いつも側にいる。
この消えない印がそう言っている。
オレはそのたび思うのだ。
先生、ありがとう。
どこにいてもオレたちはずっと一緒ですね、と。【終】
あとがき
長い話にお付き合い頂きありがとうございました!
不倫って難しいですねえ…昼ドラで見てる分には楽しいんですがw
まあ私は人はどんなに生前悪徳なことしても死んだら許してしまう質なので、
四代目も許されるよ!うん!(勝手だな)(笑)
カカシ君がとんでもなく女々しいのですが、許して下さい。
今度はちゃんとカッコイイカカシ先生が書きたいですね。
本当はもっとエロもあったはずなのですが、なんか恥ずかしくなってあまりきちんと書けなかったのが心残りです(そこか)
ともかく、少しでもお楽しみ頂けたのなら光栄です。